2012年4月20日金曜日

見えないツボ 音響

平家の舞台が終わって一週間。いまいち体が休めていないので、思い切って鍼に行きました。体中ばりばり。「あ〜、こりゃひどいねぇ!刺し甲斐があるよ。」ほらここ、ここもね。と言いながら、先生は鍼を刺していきます。ドンピシャ、ずーんと鈍く響く心地よさ。たった2ミリほどの深さです。なぜ、ツボが分かるのかしらんと思いながら、いつのまにか爆睡。からだ中が液状化や〜と思いながらふらりふらりと帰宅すると、黒やぎさん、ならぬ、音響の黒さんから分厚いお手紙が。。。開けてみると先週の舞台公演の録音CDでした。ちょっと聞き始めたら、さっそく永田さんから電話があって、「柔らかないい音で録れていますね」と仰っていました。

いい音。

ってなんでしょう?


今回の舞台では、永田さんの楽器の音を細かくマイクで拾い、私の声もマイクで拾っています。音の響きはそれぞれの劇場によって様々な特性がありますが、今回はどちらかというと響かない劇場です。しゃべりはともかく、楽器にとっては響かないのは結構厳しいものです。低くて大きな波紋音、高くて繊細な波紋音、おりん(仏具)を擦る音。。。
永田さんの奏でる音色の一つ一つを当たり前のように耳で味わえるように、私の語る声や歌声が当たり前のようにお客様の耳にしみこむよう調整するのが、音響さんのお仕事なのです。

ベテラン音響の黒さんも、波紋音は今回が初めて。
まずは、どんな音がするのかと、私と永田さんの稽古を聴きにいらっしゃいました。

永田さんは使用する波紋音のあれこれを叩いて見せて、様々な音を黒さんに聴かせてはいろいろと楽器の特徴を説明します。
「この子は水っぽい音で〜〜、このさゆりちゃんは、純情な音〜〜、このニキビ君は〜〜」

…さゆりちゃん??ニキビ君??

やっぱり永田さんは面白い。

黒さんは「なるほどね」といいながら一通り稽古を聴くと、下からの波紋音の響きはどう聞こえるのか、と永田さんに持ち上げてもらって音を聴いていました。
「はい、分かりました。」
黒さんは患者を診終わったお医者さんのようでした。

その次の稽古の時、ドクター黒さんは床材に注目していました。波紋音は楽器の響きだけでなく床にも響きが伝わります。さらに、ある章段で使っていた波紋音の音が私の声と近い音が含まれていて、かえって、深みや厚みが感じられないと指摘。
なるほど、たしかにその時、やけに自分の声がきつく耳に障るなあと感じたのですが、そのせいか〜〜ドクター黒さん、さすが、すご!

劇場に入る前に、黒さんが「音はこちらがちゃんと調整しますから、気にしないで思い切り演奏してください」と伝えると、永田さんはとても安心したようでした。

音響設備もない小さな会場でやる時などは演奏者や語り手自身が音量を気にして手加減することも多いので、心配せずに演奏し語れるのは何よりです。

そして本番。

永田さんは普段見たこともないくらい、思いっきりのびのびと波紋音を叩いていました。その力強い音が劇場中に響き渡ります。そして繊細な音もしっかりと聴こえて来ます。私はマイクを意識することなく、一人一人の耳に自分の声が届いているのを感じました。今様を歌う時にはすーーっと声が伸びて会場に染み渡るようで、自分の歌声が魔法の力を持っているような錯覚に陥りました。本当に気持ちよかった。

舞台にいる私たちには、なにがどうなって、音が響いているのか分からないのですが、きっと、黒さんは見えないあちこちのツボに微妙な案配で鍼を打って、ここちよい響きを生み出してくれているんだなあ、と。液状化の私は布団にひっくり返ってCDを聴きながら思いました。

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